喜劇「一発勝負」

 
まだ、寅さんシリーズが始まる数年前までの山田監督とハナ肇さんのコンビ作の1作。
老舗旅館の跡取り息子が、放蕩をして家を飛び出し、十五年で家に帰ってくる。破天荒な兄に振り回される妹。とちょっと寅さんに似た設定。だけど、決定的に違うのは「一発」のタイトル通り、主人公がただのバカから一山当てて「一発逆転」を狙っているというところ。無責任・日本一の男シリーズの植木等
は会社や大きな組織の中での出世・成功をめざしていたが、こちらは温泉を掘り当てて、実家の旅館を一大リゾートホテルにしようというちょっとリスキーな野心。
 寅さんがやるバカは「またやってるよ」という安心感がある。つまり、まわりを破壊したりしない。酒、暴力、金、女、なぜか放蕩につきものの重大要素が抜けている。
 カタギではないのに、人に迷惑をかけないようにできている。竹光を仕込んだ侍のようなものだ。
 が、ハナ演じる主人公は失敗を顧みずどんどん行動していく。しかも、酒、暴力、金、女のトラブルもある。
 失敗することを考えずに、猪突猛進するから危なっかしい。つまりハナの行動に始終ハラハラする。
 これは寅さんととらや(くるまや)とのやりとりを見てるとのは真逆の感情が生まれる。 しかも、そのまわりを見ないがむしゃらさが引き起こすトラブルが……あまり、笑えないない……。
 なぜだろう?
 あんまり、主人公を愛せないからか? 主人公を可愛く思えない。
 最初に放蕩をして、隠し子を作ってしまったからか?
 現実にまわりでも、
「なんでこんな人が成功するんだ?」
と思うような人が、思わぬ成功を手に入れてたりするんだけど。そんな人にはあんまり近づきたくない。
 わかった。寅さんをみて安心するのは、寅さんが愛すべき人物なのもあるが、宿無しの風来坊でけして自分より上にいかないと思えるからだ。つまり優越感がもてるからだ。
ここからちょっとネタバレ。
 しかしこの主人公は、最初は人にバカにされ、迷惑がられながら最後には成功を手に入れてしまう。
 ここで、見てる人は主人公のキャラクターとの決定的な距離を感じてしまう。無責任シリーズのようにはなから、得体のしれない男だったらいいが、破天荒なクズのような男が急に出世したら、まわりの嫉みは激しいだろう。
 そして寅さんとの決定的な違いは、成長と変化だ。寅さんは仕事も風貌も人間関係も一切変化しない。ところが妹・桜は結婚し子供が生まれ、息子満夫は成長していく。他のメンバーはどんどん成長変化していくのに、寅さんはずっと変わらないピーターパンだ。
 1960年代は短い期間で、成長衰退の乱高下を繰り返す時代だった。だから無責任男のような、ぐんぐんリスクを恐れず成長を望む男が好まれたのだろう。だが、60年代後半になると、急速にクレージーキャッツの勢いは衰えていく。急成長の象徴クレージーは、だんだんと低成長の70年代の主役、テレビではドリフやコント55号。映画では寅さんにお株を奪われていく。クレージーのメンバーは本格的な俳優への道へ歩んでいく。
 かたや渥美清はテレビ「泣いてたまるか」で、懸命に生きながらも報われず、涙をこらえて生きていく市井の男の生き様を数多く演じていた。
 一攫千金や大出世。逆に命があやうくなるほどの大ピンチ。ドラマチックな仕掛けがないと、映画にならないとふんだのか、寅さん前だと、そういう展開が多い。
 けどテレビの「男はつらいよ」「泣いてたまるか」身近にあるほんの小さな心の揺れ動きを描いている。大きな大事件はなくてもドラマは成立する。
「男はつらいよ」がロングランでヒットする。もうちょっと手前の映画。試行錯誤がうかがえてとても興味深かった。

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