無冠の男 松方弘樹伝

松方弘樹と言う人、あまり好きになれなかった。私が中高生だった頃、即ち80年台に人気絶頂だった「元気が出るテレビ」では、ただビートたけしさんの隣りに座って黙って汗拭いているだけ。刑事ドラマでは、亡くなった石原裕次郎さんの後継のような役回りで、ただ椅子に座ってるだけ。「遠山の金さん」では大仰な台詞回し。
 遠山の金さんのメイキング映像を見た。そこでは桜吹雪を背中に描くメイクさんが、松方さんの魚釣りで真っ黒に日焼けした肌をさして、
「この人は本業は漁師さん。役者はアルバイト」
 と皮肉ったのを見た。
 梅宮辰夫さんとの釣りの方が話題で、とても、役者業に熱心な人とは思えなかった。
 ところがふと少年時代テレビでチラ見した「仁義なき戦い」シリーズを改めて見直してみたら、いい演技どころか、鬼気迫る演技で驚いた。
 ああ、若い頃はがんばって演技してた頃もあるんだ。という発見だった。
 いつもテレビに出てない日はないという、松方さんだったが、スキャンダルを境に、テレビ画面から姿を消した。
 それから松方さんは、Vシネマを主戦場に移して、Vシネマに出まくっていたようだ。
 剣劇スター・近衛十四郎の長男に生まれて、鳴り物入りで映画界に入ったものの既に映画界は斜陽だった。次々と先輩スターたちがスタジオを去って仕事をテレビや舞台に乗り換えた。それでも松方さんはスタジオに残り映画に出続けた。そこで経験と腕を磨きながらも、既に斜陽期に入っているので、がんばった分の評価は得られない。
 テレビに活躍の場を映しても、「テレビ時代劇」も「刑事ドラマ」も既に火が消えかかっていたような状態。
 結局、Vシネマも松方さんが参入した頃には斜陽になっていた。
 なにか、行く戦行く戦敗北になるという。貧乏くじばかりひく「七人の侍」の志村喬演じた勘兵衛のようだ。
 松方さんは長い芸能生活で何度も苦境に立たされている。だが、どんなにひどい状況に追い込まれても、苦境を糧に何度も立ち上がるしぶとさがあった。
 それは、松方さんの父近衛十四郎さん水川八重子さんが戦後チャンバラ映画製作厳禁だった時代に実演講演をしていた姿を間近に見てきていたからではないかと思う。
 戦後になっても仕事が途切れない、超大スターではなかった。チャンバラひとつがウリモノで、そのチャンバラが使えないのだから、不遇に甘んじるしかなかった。その不遇の中でも、少しでも成長しようと、女剣劇のスターに教えを乞うなど、スターのプライドをかなぐり捨てて、なりふりかまわず動く必死さがあった。
 かって東映の主演スターで、テレビでもいつも主役の人が、Vシネマだと「墜ちた」という屈辱を感じたかもしれない。
 それでもいち早く順応して、自らも製作するようになるのはやはり、並大抵の打たれ強さではない。
 これから先行き不透明な時代。どの仕事をしても、どんな組織にいても、安定という言葉はない。
 柔軟に方向を変えながらも、自分の生き様矜持はぶれない。松方さんのような生き方がこれからの時代に必要かもしれないと思った。 なお、DVD化されていないと共著者が嘆いていた幻の作品

「脱獄広島殺人囚」

「暴動島根刑務所」

「強盗放火殺人囚」

は今はDVD化されています。DMMの無料体験で見れちゃいますよ。
 俳優さんの死後、若き日の幻の作品がDVD化されるのはよくあるケース。できれば本人の生存中に出してあげて欲しい。
 しかし、生きている者は改めて作品が鑑賞できる。ありがたい。




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