「老人と海」

中学生の頃、やたら恰好をつけて、ちょっと無理してチャンドラーやハメットのハードボイルド小説を読んでいた。細かな外面描写が滅茶苦茶かっこよくて、痺れた。けど、あまりにも描写にとらわれすぎて、肝心なストーリーやキャラクターの動きが分からなくなって、行ったり来たり。
 文庫本の解説には必ず、ハードボイルドが派生した経緯が書かれていて、そこには一番始めにヘミングウェイの名前があった。つまり、ヘミングウェイこそハードボイルド小説の原点であると。
 てなことで、ヘミングウェイもきっとチャンドラーらと同じようなスタイルで書かれているのだろうと思い込んでいた。つまり外面描写で貫かれていると。で、50になるまで全くヘミングウェイを読んでなかった。
 いつか読もうと本棚に並べたまま放置していた。
 ふと手にしたのが「老人と海」だった。一番薄かったのが好都合だった。
 冒頭、読み始めて驚いた。外面描写だけでなく、内面描写がすごい。老人の後悔、期待、過去の記憶、夢、妄想。自分自身を励ます言葉。自然描写と共に、老人の中にある思いの全てが吐き出されている。
 チャンドラーとはまるで真逆のスタイルだ。 たった一人で漁に出た老人の境遇と心情が、たった一人で店をやっている自分とリンクして、心に迫った。私が老人の気持が分かる境涯になるまでこの本はじっとまっていてくれたのかも知れない。
 生涯の一冊のになった。
 続いて、気になって映画も見た。
名優スペンサー・トレーシーの老漁師。完璧に役になりきっている。漁師そのものだ。だが、当時の技術が追いつかない。全編、漁のシーンはスタジオ撮影だ。これでは臨場感がない。合成技術がまだ稚拙で、はっきりと合成と分かる。
 監督はジョン・スタージェス。「大脱走」や「荒野の七人」の名匠。こちらでは結構野外シーンも多かったのに。トレーシー側の都合か、当時の技術の限界か、残念と言わざるをえない。
 特典のドキュメンタリーでヘミングウェイがカジキを釣る映像の方が迫力がある。
 現代の技術でまるまる、漁の場面をCGで造り替えるのもありかも。まあ、それは野暮か。
 で、撮影当時のトレーシー。御年58歳。ええ、俺の年と変わんないよ。そろそろ老人の域なんだねえ。




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