「猿を探せ!!」横山秀夫文学講演会レポート・倉敷芸文館

ま、いっかけん
文学創作の秘密研究研究家ま、いっかけんです。2019年7月20日に倉敷芸文館で「半落ち」や「64」でおなじみの横山秀夫さんの、文学講演会が行われました。今回は対談形式の講演会で、聞き役の高田直美さんがたくみに横山さんの創作の秘密を聞き出されていました。作家志望の方のためにできるだけカットすることなく情報をお届けします

警察小説の先駆け。横山秀夫の経歴

横山秀夫さんは大学卒業後、年間群馬の新聞社に事件記者として勤務。
フリーライターを経て、1991年に「ルパンの消息」でサントリーミステリー大賞で作家デビュー。
96年「陰の季節」で松本清張賞を受賞しました。

横山さん以前は警察小説とは刑事小説。
現場の刑事たちが事件を追っていくものでした。
多くの刑事ドラマもこの形式でした。
横山さんの登場で、察内部の組織と個人という図式が描かれるようになりました。
「太陽にほえろ!」や「はぐれ刑事純情派」の頃は刑事たちのドラマで完結していたのが、「踊る大捜査線」「相棒」のように警察組織の中も描かれるようになりました。

警察小説の中身自体をガラッと変えてしまったパイオニアなのです。

作家としての掟

12年間の記者生活で横山さんは心に決めていたことは、
犯罪者や不正を働く組織を記事によって断罪する限り、自らも襟を正し絶対に後ろ暗いことはしないと決めていたそうです。

しかし、最終的にジャーナリストとして正義感・使命感が資質的に欠けていると自認し、作家として歩むことになります。

書くと言う行為は同じでも
事実を正確に伝える記者と、
虚構の中に事実という橋を建て、想像力を使って物語という橋を架ける作家の仕事は全くの別モノ。

小説を書く上で大事なことは、ジャーナリストとは180度真逆でした。
自分を全ての悪事を行う可能性のある存在だと自認しないと、一行も書けないと言います。

離れてから気づいた組織と人間

横山作品に通底する組織と人間のせめぎあいというドラマは意外や、組織の中にいた時はまるで気にならなかったそうです。
一度組織を離れフリーになってはじめて、人間にとって組織というものが有形無形に影響を与えていたことを知ります。
距離ができたことで、ようやく中にいた時には気が付かなかった自分を取り囲んでいたモノの本質を掴むことができました。

【組織と人】という横山さんのテーマは横山さんの人生の中から生まれた切実なものだったのです。

全ての登場人物は自分の分身

リアルな人物描写と造形で定評のある横山作品ですが、現実にいる人をモデルにすることはないそうです。

モデルがあったとしても、分解しすり潰し、再構築するのだそうです。
実際に起きた飛行機事故をテーマにした「クライマーズ・ハイ」でも、その現場にいた人が読んだ後も、この人がモデル?というような人物は1人も見当たらなかったと言われたのだとか。
それもそのはず、登場人物の1人1人は横山さんの分身なのだから。

だから、登場人物に悪人がいて、
「あいつ、悪いやつだね」
とけなされるとまるで自分がけなされてる気分になるんだとか。

超意外、取材はほとんどなし!!

あれだけ、緻密な事件や組織の事情を克明に描いているのだから、横山さんは常に事件があると取材に飛び回っている?
と勝手にイメージしていたのですが、作家になって以来、ほとんど取材はしないんだそうです。

作家さんによっては、現地に徹底的に取材に行き、土地に溶け込むほどになるタイプもいます。
記者出身だけに横山さんが作家になれたのは、記者時代に培った取材力が武器だからと、勝手に思っていました。

取材の落し穴

横山さんは直接取材は弊害があると言います。

  • 情報元の発言が事実になってしまう。
  • 情報元に気を使ってしまう。

なるほど、事実を集めていくと、逆にバイアスがかかって真実から遠くなる。
記者時代に取材経験豊富である横山さんだからこそ説得力ありますね。
横山さんが取材する場合は必ず【雑談】だそうです。
雑談の中にこそ真実があるようです。

小説作りに通じる? 趣味は庭造り 

昔はドライブが趣味だった横山さん、しかし締切に追われる作家生活を送ると、家に出るだけで罪悪感に囚われるようになります。
出かけても、罪悪感で全然楽しめない!!
そこで、気晴らしになったのが自宅の庭の草むしり。
それがこうじて今では庭造りが趣味になったそうです。

さぞかし、立派なお庭で拝見したい気がしますが、庭は絶対に人に見せない主義です。
小説には完成がありますが、庭造りには完成がない。
小説でも、構想自体から原稿完成まで、けして編集者さんに見せないで完成した原稿を渡す姿勢をデビュー当時から貫いています。

小学校の読書体験が土台

なぜか友達の少なかった少年期。
友達の家を遊びに行っても、お母さんから門前払いをくらいます。
何故なんでしょう?

友達は学校図書室の本達だけ。
シャーロック・ホームズを皮切りに、図書館の本を全部読破してしまったそうです。
やはり、プロになる人は読む量・書く量が半端じゃないですね。

「フランダースの犬」には理不尽な結末に憤り、自前で「続・フランダースの犬」を書きました。
この頃から既に小説家の才能が芽生えていたようです。

オー・ヘンリーの短編集を読んで、大いに感慨を受け、その時自分の子供時代は終ったというのを自覚したそうです。

鮮やかな筆致と毎回、あっと驚く結末ーー

横山作品にも通じるものがありますね。
横山の文学の原典なのかもしれません。

購入した本が語る作家の頭の中

雑誌の企画で、30,000円の図書カードを渡し、今読みたい本を購入しました。
その本のリストの中身は……

永遠なる謎・宇宙

警察小説からSF小説に転身? するわけではなく、

本屋さんに立ち寄ると必ず宇宙関係の本を購入するそうです。
優秀な学者さんが宇宙の謎をこぞって研究していますが、
ついぞ宇宙自体のなりたちを説明できるものに出会わなかったのだとか。
「猿でもわかる相対性理論」を読んでも理解できなかったそうです。
そう言えば、ホーキング博士も超ひも理論でも宇宙のなぞはやっぱり分からず仕舞い。
永遠のロマンです。

福岡伸一教授の本など科学にとても関心があるようです。

ノンフィクションを読むのは小説の訓練になる

横山さんがノンフィクションの本を読むのは小説を書くための資料にするためではなくて、
そこに書いていないものを見つけるためだそうです。
そこに書かれていないものに真実があり、それを想像することが小説を作る頭脳を鍛える
訓練になるそうです。
取材をしない姿勢と言い横山作品の創作の真髄がかすかに見えてきたような気が……

小説家志望は絶対読むべき鉄則

さて、ここからは小説家志望の方には垂涎の至極のプロ作家の生の技に触れる。
鉄則集です。絶対、頭に叩き込んで自分のものにしてください。

ネタは探すな

作家が書くものは外に求めるのではなく、自分が人生を生きる上で出会った切実なテーマから出るものでないといけない。
ネタがないと言って、ネタ探しをしている時点で、自分の内なる世界がないという証拠。
書きたいものは自然と沸き起こってくるものだそうです。

最初の10頁~15頁が肝心


綿密にプロットを練っても、最初の書き出して、人物、物語がうまく走りだすまで何度も何度も冒頭の10から15ページを書き直すそうです。
冒頭部分がうまくいくと、後は加速がついて、スムーズに書き進められるそうです


呼応ができているか

一文、一文はけして独立したものではなくて、小説の中の一文と呼応していないといけない。
ちょっと、意味が伝わりづらいかもしれません。
「64」を執筆中、作品に必要な決定的な一行を思いつきました。
完成までにどこかに入れようと思っていたのに、ついに書き終えるまでに、その行を入れる場所を見つけることができませんでした。
それくらい一文一行に魂をかける。作家って凄いなと感じました。
また、「64」では、行方不明になった娘の行末を書いていません。
それを入れてしまうと、それまでの両親の苦悩が嘘になってしまうと感じたからあえて書かなかったそうです。
娘のその後は、横山さんの死後に発表すると約束されている作品で読めるそうです。

猿を探せ!! 叩き潰して人間にせよ!!

先程「猿でもわかる相対性理論」でも出てきましたが、ここに言う猿とは【不自然な登場人物】と言うことです。
ただ物語を成立させるためだったり、人格がないようなぎこちない人間を横山さんは【猿】にたとえました。

小説を最後まで書き終えたら、その中に【猿】がいないか徹底的にチェックします。
猿がいると、他の部分がいくら上手く書けていても小説自体が台無しになります。
必ず見つけ出して、人間に昇格させます。
不自然な部分を見直して、自然なように改善せよと言うことでしょう。
ただ、猿が猿のままでないと、根底から物語が成り立たない場合があります。

それは、はじめから物語自体が破綻しているといことで、そんな場合は最初からぶち壊して、また立て直すしかないそうです。
キビシー!!

言葉の奪い合いを制せよ

講演の中で、横山さんは古来から作家は言葉の奪い合いをしていると言いました。

数々の文豪が、こぞって名文を発見・発明してきました。
作家はその名文たちの打ち立てた言葉の中から、また新たな言葉を生み出さねばなりません。
現役の作家たちは、そんな鎬を削る言葉の奪い合いをしていると言うのです。

言葉に関してそこまで真剣に考えたことなかったなあ。
まさに、ペンを持った武芸者の真剣勝負ですね。

普段使いの言葉の意味を深掘りせよ

言葉の奪い合いが出来るほど、文章作りに長けてなかったら、
普段遣いの言葉を深掘りして考えてみろ。

「ありがとう」「ごめんなさい」
誰もが普段使う言葉にも、言う人によって違って来るし、意味が変わってくる。

うーん、そんな事も今まで考えた事なかったなあ。

作品作りでこころがけていること

横山さんが作家として心がけているのは、
【世の中に復讐しない】
負を生のまま出さない。

誰かのために書く。
とことん自分の思いつめたものがあればきっと誰かのためになる。

驚異の集中力とスタミナ

大作「64」は寝食を忘れて創作に没頭し、48時間異常寝ないで執筆されたそうです。
凄い。圧倒されますね。

まとめ

横山秀夫さんのお話をお伺いして、思ったのは作家というのは今あるものの間にある隙間からないものを見出して、新たに作り出す仕事なのだなあと実感しました。
小説だけでなく、AI時代になる令和は、ほとんどの既存の仕事は機械がやってくれるようになるそうです。
そうなると小説家的な想像力と創造力がどんな人にも求められるのかもしれません。

ま、いっかけん
横山さんの講演を聞いて、改めて自分の小説を読み直したら、猿の軍団が復讐するという内容だと気が付きました。道は遠い!!




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